個人ビジョンと組織ビジョン

ビジョンとは、将来のありたい姿である。

ビジョンには、個人ビジョンと組織ビジョンがある。

個人ビジョンは、自己としての将来のありたい姿。

組織ビジョンは、”自己を含む”組織としての将来のありたい姿。

個人ビジョンと組織ビジョンが(一部でも)一致する時、個人の活動と組織の活動が連動し、両ビジョン実現の可能性と速度が大きく高まる。いわば、小さい歯車と大きい歯車が噛み合う感じになる。

逆に、個人ビジョンと組織ビジョンが(一部でも)一致しない時、個人の活動と組織の活動は乖離し、両ビジョン実現の可能性と速度が大きく低下する。最悪の場合、小さい歯車も大きい歯車も空回りし始め、日々の活動の手応えを全く感じなくなるようになる。

私が、組織ビジョンの威力を実感したのは、監査法人でリクルート活動のリーダーをやった時のことだ。

このリクルート活動は、最終的に東京国際フォーラムで、5日間にわたり1000人を超える受験者を迎えた。150人ほどのリクルーター(同期)が活動に関わり、150人ほどの新入社員を採用した。その中核となったのは、20人ほどのプロジェクトメンバーだ。

1000人近くの受験者を迎えるためには、①説明会や面接の受験者の管理、②説明会の企画と運営、③面接の企画と運営、④面接を担当する社員の管理、⑤リクルーター(同期)の管理、およびこれらを支える⑥ITシステムの構築と管理、⑦予算の管理などが必要になる。

20人ほどのプロジェクトメンバーは、各チームに分かれ、それぞれの役割を遂行していく。各チーム間の活動の整合性を確保するため、チーム横断的な調整を行う。時に喧嘩しながら、時に協力しながら、各チームの企画を練り上げ、相互の活動を連動させ、リクルート活動の全体を創り上げていく。それぞれのチームが、それぞれに必要な人員を確保していく。同期に声をかけ、リクルート活動に協力してもらうのだ。

私は、このリクルート活動全体を統括するリーダーの役割を担っていた。もちろん人事の方々の支援を受けながらではあるが、一応、「リクルーター統括」という仰々しい肩書きをもらっていた。

プロジェクトの初期段階では、私はかなり全体をリードする役割を担っていた。そりゃそうだ。まだなーんにも決まっていなかったからだ。ミッション、ビジョン、価値観はもちろん、リクルート活動の企画から実行までを推進していくプロジェクトメンバーも決まっていなかった。チーム体制や役割分担も未定。それぞれの活動内容も未定。ないない尽くしの状況下からのスタートだったので、私は、副統括の方や人事の方々と一緒に、プロジェクト立ち上げのための叩き台をつくり上げていった。同期に対しては、リクルート活動への協力依頼、さらにはプロジェクトへの関与依頼をしていった。

私は、「おーっ、これがリーダーか。うーん、我ながらリーダーって感じがするなぁー」と思っていた。自分が動かないとプロジェクトが立ち上がっていかない。プロジェクトが立ち上がらなければ、東京国際フォーラムでのリクルート活動は実行されない。ある種の使命感を帯びながら、私はリーダーを楽しんでいた。

ここからリクルート活動当日を迎えるまでに感じたことは、たくさんあるのだが、あまりにも長くなるので割愛する。

私がここで一番言いたいことは、「リクルート活動当日が一番暇だった!」ということだ。

この体験は、私にとっては、とても衝撃的な体験だった。

東京国際フォーラムでのリクルート活動そのものは、それはもう大盛り上がりだった。なんせ毎日数100人もの受験者が訪れてくる。その受験者に熱意を持って対応しているリクルーターの姿がそこかしこで見られる。

あっちの会場では説明会チームが説明会を開催している。こっちの会場では、面接チームが受験者と社員との面接を段取りよく進めていく。その裏側では、社員管理チームが、社員が面接時間に遅れないようにケアしている。受付チームは、受験者からの予定変更やキャンセルを受け付け、説明会チームや面接チームに連絡している。リクルーター管理チームは、当日だけ活動に関与してくれる人たちへの連絡、配置転換、突発的なQ&A対応などを行なっている。

延べ150人近くの人たちが自発的に動き、東京国際フォーラムでの5日間にわたるリクルート活動が遂行されていく。

「うわー、すごいなぁー。さすがやなぁー。ほんまいい会社やなぁー。いい仲間やなぁー」と私は喜んでいた。

その一方で、妙な淋しさがあった。

なんせ、暇なのだ。

説明会の冒頭で、ちょっとだけ挨拶する機会はあるのだが、私の出番はそれだけ。あとは、なーんにもすることがない。

みんなに弁当を配ったり、そこかしこで活動しているチームリーダーに「順調?」「頼むでー」と声をかけたり、当日だけ関わってくれているリクルーターの同期たちに「ありがとねー」と感謝して回ったり。これといった非常事態が起こらない限り、私の出番はない。ほんと、何度も言うが、暇だった。でも、じっとはしていられないから、あてどなく東京国際フォーラムのひろーい会場をずっと歩き回っていた。

個人ビジョンと組織ビジョン。

リクルート活動立ち上げに向けた初期段階では、私の個人ビジョンがかなり強かった。だが、リクルート活動当日を迎えるまでの間、日々、組織ビジョンが育っていった。それはものすごくでっかいでっかいビジョンだった。リクルート活動当日、東京国際フォーラムにおいて、私はそのビジョンが具現化される姿を見た。一人一人がそのビジョンを共有して活動している。そんな風に感じた。そこでは、私はほんの小さな存在だった。でも同時に、私はその大きな大きな組織ビジョンの一部であった。

「おーっ!リーダーってのは、こんな感じの存在なのかー」と実感した。

この私のリーダー体験が、一般化しうるリーダー体験と言えるのかどうかはわからない。

だが、私自身は、何度も同じようなーダー体験をしている。

おそらく私のリーダーシップスタイルは、今風に言えば、”サーバントリーダーシップ”に近いものではないか、と思う。

私が私自身のリーダー体験から自信を持って言えることは、

「個人ビジョンの延長線上に、大きな大きな組織ビジョンを描けた時、すごく純粋に無私で利他的な自分が現れる。その結果、組織全体として一人一人の力の総体を超える大きな大きなエネルギーが生まれ、プロジェクトを成功へと導く」

ということである。

私は、この状態を「ジーニーが現れる」と表現している。

ジーニーとは、ディズニーの映画『アラジン』に登場するランプの魔人である。

私にとって、”リーダーになる”とは、「個人ビジョンから組織ビジョンを描き出し、ジーニーを出現させること」と言える。

それはいわば、自己のリーダー性を目覚めさせる行為とも言える。

あなたにとって、”リーダーになる”とは、どんな行為ですか?

個人ビジョンと組織ビジョン。

会社であれ、家族であれ、同好会であれ。

自分を含む複数人の人たちが関わるコミュニティをより良くしていくためには、両ビジョンの関係性をつねにより良いものにしていこうとする意識を持ち続けることが大切である、と思います。

TAKU &sing

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