にこやかな笑顔とスッと伸びた背筋。
凛とした佇まいと涼やかな装い。
「なんと言っても姿勢がいい!」
月並みかもしれないが、それが私のHさんに対する第一印象であった。
そこには、ダンサーとしての存在感があった。
一方、インタビューの冒頭、Hさんはこう言った。
「私の職業、バレリーナと言っていいのかな…」
「ダンサーとして食べて行けているわけでもないし…」
Hさんへのインタビューを通してわかったことは、「日本では、女性がバレエダンサーとして食べて行くのは非常に厳しい」という現実だった。
職業:バレリーナ(バレエ講師)
氏名:Hさん(女性・40代)
どんな仕事?
一般にバレリーナと言えば、バレエダンサーを指すと思われますが、日本では女性がバレエダンサーとして食べて行くのは非常に厳しいです。仮に大きなバレエ団に所属できたとしても、その収入だけで生活を成り立たせて行くことは厳しいようで、私の知り合いでもアルバイトをしながら生活している人がいます。
一方、自らがバレエを「踊る」のではなく、バレエを「教える」という道もあります。バレエを「教える」道は大きく3つあります(もちろん、他にもあるかもしれませんが…)。
①個人として名前を売り、いろんな教室に招かれてワークショップ等を提供する
②すでにある教室でバレエ講師を勤める
③自分で教室を開いてバレエを教える
私は、いま自分で教室を開いてバレエを教えています。
きっかけは?
バレエを習いはじめたのは小学2年生の時。友達に誘われてはじめました(友達はその後やめちゃったけど…)。それからずっと、バレエをやり続けています。
子どもの頃からバレエが好きで教室に通い続け、発表会や舞台に立っていました。先輩に憧れて「もっとうまくなりたい」と思ったり、素敵な舞台を見て「私もあんな風に踊りたい」と思ったり。そういう思いを抱きながら、ずっとバレエを習い続け、踊り続けてきました。
でも、25歳くらいの時にふと思いました。周りの友達が働きはじめている中で、「私、このままでいいのかな?」「このまま、教室で習い続けているだけ(言い換えれば、お金を払い続けているだけ)でいいのかな?」と。
その後、バレエ教室を経営している人と知り合ったことをきっかけに、バレエ講師として働くようになりました。
そして2012年。それまでお世話になっていたバレエ教室を離れ、独立しました。いまでは、自分でバレエ教室を開いて経営しています。
独立に際しては、これまでバレエを通じてお世話になってきた方々からあれやこれやと助けていただきました。中には、「先生!スタジオの場所を見つけて来たから、ここで教室を開いてください!」とまで言ってくれる人もいました。
そうやって助けてくれる人たちがいてくれるおかげで、いまも何とか自分の教室を経営できているのだと思っています。
子どもに勧める?
バレエをやることは大いに勧めます。バレエは、本当に素晴らしい総合芸術ですし、 自分の身体にも興味が出るので姿勢や体型も良くなります。マナーも身に付きます。
ただ、バレエを仕事にすることはあまり勧めませんね(笑)。バレエを仕事にするまでやり続けるには、それなりにお金もかかりますから。もちろん、本人にやりたいという気持ちがあり、かつ、それができる環境(支援してくれる人がいるなどの環境)があるのであれば、ぜひ挑戦してもらいたいと思います。
大切にしていることは?
バレエは習い事なので、バレエ好きの人が集まり、かつ、年代を超えた交流の場になればいいな、と思っています。
学校や家庭とは異なり、年齢の離れた人たちが好きなことを共有しながらお互いに切磋琢磨したり励まし合える。そういう場があることは、自分の憧れを抱いたり、諦めずに頑張る気持ちを持ち続けたりする上で、とても大切なことだと思っています。
あと、バレエを教えていて嬉しいなと思うのは、目がキラーン!となる姿を見ることです。子どもでも大人でも、「できなかったことができるようになる」と、その人の目がキラーン!となります。
一人でも多くの方に目がキラーン!となっていただけるよう、「腑に落ちる」伝え方をしていきたいな、と思っています。
大変なことは?
「収入にならへんな〜」です(笑)。
特に女性のバレリーナがお金を払ってばっかりになってしまうバレエ業界の仕組みは、「なんとかならへんのかな〜」といつも思っています。
食べていくために工夫していることは?
「バレエを教えたい!」と思う一方で、すでにバレエ教室はたくさんあります。また、いまのところ日本ではバレエの先生になるのに資格はいりません。競争は激しいです。
なので、未経験者の方でも気軽に教室に来てもらえるよう、バレエ以外のダンスやエクササイズのクラスも展開しています。2012年にジャイロキネシス認定トレーナーの資格を取得したのもその一環です。
また、私自身が、絵画や衣装、ティアラ製作も行なっていることから、「ティアラ講座を開かないか?」というお話もいただいています。
ジャイロキネシスのクラスやティアラ講座などをきっかけに、バレエに興味を持つ人が増えて行ってくれたら嬉しいな、と思っています。
Hさんにとってバレエとは?
なくてはならないもの。いつも考えてしまうものです。
何かを見たり、何かを聴いた時。
「こんな風に踊れたらいいな〜」といつもバレエのことを想像してしまいます。
自分の好きなこと、自分のやりたいことを仕事にすればいい、と言うのは簡単。
その上で、
生活を成り立たせて行けるだけの収入をどうやって得ていくか?
経営を成り立たせて行けるだけの収入をどうやって得ていくか?
好きを仕事にしていくためには、しっかりとお金と向き合い、収入を得るための工夫と努力を重ねていく必要があるということを改めて感じました。
どっひー&sing