【一日一職】電車運転士

電鉄会社の制服を着たMさんはキリッとしている。

そして、つねに周りの人たちに目を配っている。

同時に、周りの環境に目を配っている。

それでいて、笑顔を絶やさない。

インタビューを通じて、Mさんの身のこなしのわけがわかった。

電車運転士は、つねに安全、安心に気を配っているのだ。


職業:電車運転士
氏名:Mさん(男性・50代)

どんな仕事?

電車運転士の仕事は、「目的地まで安全、安心に、時間どおり、できれば気持ちよく、お客様をお運びする仕事」である。

まず安全であること。これがもっとも重要である。日々、事故が起こらないよう、線路や車両を点検している。

次は、安心に。仮に事故がなかったとしても、お客様が不安を感じるようでは乗っていただけない。信号を指差し確認するなどの行為だけでなく、身だしなみも含めて、信頼を積み上げていく必要がある。

そして、時間どおりに。安全、安心あってこその時間どおり。無理に時間どおりに運行しようとして、安全、安心が疎かになるのは本末転倒である。

最後は、できれば気持ちよく。一般に、電車に乗っている時間は苦痛な時間だと思われている。特にやることはないし、見知らぬ人たちが周りにいるし。そんな苦痛な時間を少しでも和らげられたらいいな、と思いながら、お客様に挨拶したり、声をかけたり、接したり。これも電車運転士の仕事だと思っている。

きっかけは?

20歳の時、腰を痛めて入院し、手術をした。当初、家業を継ぐことも考えていたが、しばらく体力仕事は厳しいだろうな、という状況だった。ちょうど病院を退院する頃、たまたま電鉄会社で電車運転士の募集があることを知った。たぶんアカンやろうな、と思いつつ、ダメ元で応募した。そしたら、受かった。その時、たまたま定年退職の方が多くて電車運転士の空きが結構出たみたいで。ほんと、たまたま。

電鉄会社に就職した後は、駅務員をやりながら、電車を運転するための免許である「電気車免許」(国家資格)を取得し、21歳から電車運転士に。37歳までの16年間、日々、電車運転士として勤務し続けてきた。その後は、助役、駅長などを経て、電鉄会社で勤務し続けている。

最近、電車運転士になる人の多くは「昔から憧れてました」とか「夢でした」と言って入ってくる人が多いのですが。実は私はそうではなく、たまたまなんですよね。あまりドラマチックでなく、すみません…(笑)。

子どもに勧める?

子どもが「やりたい」と言えば、「やったら」という感じですね。基本的に、やりたいことをやればいい、と思っているので。

また、あえて電車運転士を「やれば?」とも言わない。電車運転士に合う人、合わない人がいると思うので。

電車運転士の仕事は、安全、安心第一。毎日、当たり前のことを繰り返す仕事。なので、退屈、目に見える成果がない、創造的でない、と感じる人もいると思う。一方で、そのくらい日常に溶け込んだ仕事であると言えるし、お客様との対話を楽しめる仕事でもある。

こういう前提を理解した上で、電車運転士をやりたい、と言うのであれば、ぜひやればいいと思う。

大切なことは?

つねに心身ともに整えておくこと。

毎日の安全、安心を実現するためには、心や身体を整えておくことが大切になる。

悩み事や健康の不安など、気になることがあるとどうしても集中力が低下する。その結果、一瞬の油断が大事故に繋がる可能性がある。

なので、仕事の時間だけ頑張ったらいいわけではない。「24時間、運転士」とは言わないまでも、つねに自分の心身を整えておく意識を持ち続ける必要がある。

電車運転士は、たくさんの人の命を預かっている仕事である。

これを重圧に感じるのではなく、誇りに思える人でないと電車運転士は務まらないかもしれない。

嬉しいこと、嫌なことは?

お客様から温かい言葉をかけていただいた時は嬉しい。「ありがとう」という一言や、にこっと笑ってくれるだけでいい。また、知り合いが乗って来たり、近所のおばちゃんが乗って来たり。そういう人としての触れ合いがあるとそれだけで嬉しくなる。

あと、「残らない仕事」なのがいい。勤務時間に電車を運転し、お客様を目的地に届け終えたら何も残らない。例えば、事務仕事のように、自分のやった結果が残って後に迷惑がかかる心配もない。人によっては、成果がない仕事と思う人もいるかもしれないが、私にとっては「残らない仕事」であることがいい。勤務時間は不規則だけど、平日に休めるし。仕事とは別に、趣味や自分のやりたいことがある人にはいい仕事なのではないかと思う。

嫌なことは、ミスをしたり、クレームになること。つねに、事故が起きないように細心の注意を払っているが、事故が起こる時もある。私も若い時、ドアでお客様を挟んでしまったり、早発(発車時刻よりも早く出発)したりしたことがあった。事故が起きれば、その原因を追求し、再発防止に努める。だが、「なぜそんなことをしてしまったのだろう?」と自分を責めたり、自信を失ってしまうこともある。すごく落ち込んだりもする。ただ、落ち込んでばかりいても仕方がないので、ミスはミスとして認め、反省し、そこから立ち直っていくことで一人前の電車運転士になっていくとも言える。

私も、ミスをするたびに、上司に励ましてもらい、助けてもらった。育ててもらった。いまは逆に、若い電車運転士を指導し、育てていく立場になっている。

食べていくために工夫していることは?

特にない。というのも、電車運転士は、電鉄会社に就職して勤務していることが前提になるので。

雇用される期間や給与水準などは電鉄会社により異なるだろうが、家族で食べていくのに大きな苦労はないのではないかと思う。

ただ今後、AIやロボットの進化で自動運転技術が発達すれば、世の中で必要とされる電車運転士の数は少なくなっていくかもしれない。あるいは、電車には乗るが、運転はせずに監視するだけという仕事になっていくかもしれない。

これから電車運転士を目指す人は、その可能性を踏まえた上で、職業選択をしてもらえたらと思う。

Mさんにとって電車運転士とは?

電車運転士とは、「目的地まで安全、安心に、時間どおり、できれば気持ちよく、お客様をお運びする人」である。


安全、安心であること。

一見、当たり前のことのようだが、その裏で、日夜努力されている方々がいるということを知った。

時間どおりであること。気持ちよくあること。それはそれで大切なこと。

だが、それにはしっかりとした土台が必要になる。

安全、安心であること。ふだん当たり前だと思っていることに、もう少し意識して目を向けてみたいと思う。

どっひー&sing

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