贈り物と交換と労働について

もうすぐ母の日。

今年は5月13日。

お母さんに何を贈りますか?

花を贈る。ケーキを贈る。手紙を贈る。写真を贈る。絵を贈る。歌を贈る。

贈り物とは、物のようでいて、物でない。

物の形を借りた心。

贈り物は、心を贈っているのだろう。

だからこそ、贈り物をする時には、綺麗な箱を用意する。リボンをつける。いつ渡すかのタイミングも計る。手から手へと手渡す。

贈り物は、心を贈るものであるからこそ、その物以上に、贈り方が重要になるのだろう。心がまっすぐ届くようにするために。

そんな心を尽くした贈り物。

それを受け取ったのは、いつだろうか?

それは何だっただろうか?

私の人生にとっての最大の戴き物。

それは、私自身。

母と父が、私を生んで育ててくれたからこそ、私はいま生きている。

いま、こうしてスマホでブログを書いている。

私が生まれたての時。きっと何か柔らかい布で、その身体を包んでもらっていただろう。

母と父は、きっと私を贈り物のように、あるいは何かからの戴き物のように、大切にくるんでくれていただろう。

私が生まれたのは1974年の1月。母曰く、石油ショックでトイレットペーパーがなかなか手に入らなかったという。私は下痢気味だったらしく、いくつものお店を回ってトイレットペーパーを買い備えていたらしい。

その間、私は無邪気に寝ていただろう。笑っていたかもしれない。泣いていたかもしれない。先の話を母から聞かされたところで、私にはまったく記憶はない。そうやって、私は生まれ育てられて来たのだ。

私は、自らの意思で生まれて来てはいない。母と父、さらには人知を超えた大いなる何者かの意思により、生まれて来た。

私が、いまここにあることは、それ自体が贈り物であり、戴き物である。

母と父がいなければ、私は存在していない。

この世に生まれて来ることもなければ、44歳になることもなかっただろう。そしてこの先の人生もなかっただろう。

もし私の母や父に何か困った事があったとしたら、私は無条件で何かを返さなければならない。なぜならば、私がいまここにあるのは、私の母と父のおかげだからだ。

しかし一方で、どんなに尽くしたところで、母や父の恩に報いることはできない。恩を返し切ることは決してない。なぜならば、その恩の大きさは計り知れないほどに大きいからだ。計り得ないものを返し切ることはできない。

母や父からの戴き物は、どんなに贈り物を贈り続けたとしても、返し切ることはない。

もしかしたら私の人生の最大のモチベーションは、母や父からの戴き物に対する返報性の原理(心理)なのかもひれない。

先にGIVEしてもらった以上、GIVEし返さなければならない、という心理が強く働いているのかもしれない。

だからこそ、自分が父となったいま、子どもたちに対しても、無条件にGIVEしなければならない、と思っているのだろう(なかなかそうはできないことの方が多いのだが)。

贈り物と交換と労働の関係について、面白い記述がある。

以下、少し長くなるが、『下流志向 学ばない子供たち 働かない若者たち』内田 樹(講談社文庫)の文章を引用する。

交換は何かを「贈り物」として認識するという動作と同時に開始される。

贈与はすでに行われている。それゆえ、受け取ったものは反対給付の義務を負う。

でも、そもそも最初に受け取ったものの価値がよくわからないので、それに対して反対給付をしても原理的に等価交換は成り立たない。

サラリーマンの労働も、もしそれを人間的活動たらしめたいと思ったら、交換の基本ルールに従わなければなりません。「働く義務がある」ということをあらゆる人間社会がその基礎的な倫理としてきたのは、「働くことで、すでに受け取ったものを返さなければならない」という反対給付の義務感が僕たちの社会生活のすべての始点にあるからです。この義務感・負債感を抜きにして労働のモチベーションを基礎づけることはできません。「働かなくてはならない」というのは、労働についての装飾的に追加されたイデオロギーではなくて、労働の本質なのです。

誰かに何かを差し出す時。

すでにもらったものを返す。

そのために贈り物をする。

そんな気持ちになるためには、”すでにもらったものがある”ということをまず認識する必要があるのだろう。

この気持ちがないままに、誰かに何かを差し出し続けていると、「何でこんなことしなアカンねん!」「絶対わりに合わんわぁー」「めっちゃ損してるわぁー」という気分になるような気がする。

労働の本質は、

「戴き物を返すために贈り物をすること」

なのかもしれない。

母や父に歌を贈ってあげる。

ってのも、悪くないかもなー、なんて思いつつある今日この頃です。

かなりこっぱずかしいですけどね…

どっひー &sing

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