私は、長きにわたり、「学ぶ」ということについて考えてきた。
そして、「学び方」について、大きな影響を受けた本が2冊ある。
1冊は、野中郁次郎氏と竹内弘高氏の『知識創造企業』(原題: The Knowledge-Creating Company)
もう1冊は、ピーター・センゲ氏の『学習する組織』(原題: The Fifth Discipline)
※私が読んだ本は『最強組織の法則』という邦題
中でも、『学習する組織』にある「システム思考」という考え方には、大きな衝撃を受けた。
おそらくその時からだろう。私がしつこいくらいに自己を客観視するようになったのは。そしてそれは同時に、自己が暗黙的に受け入れているメンタルモデルを克服する試みでもある。
『学習する組織』では、”コップ1杯の水を入れる”という行為を例にとってシステム思考を説明している。
ふだん、私たちは、何気なく水道の蛇口をひねってコップ1杯の水を入れる。
1. コップを蛇口の下に持っていく
2. 蛇口を開けて水を出す
3. コップから水が溢れる前に蛇口を締める
ただこれだけ。
しかし、大きな疑問がある。
「なぜ一定量の水だけがコップの中に入るのか?」
「なぜ水はコップから溢れないのか?」
重要なポイントは、2と3の間にある。蛇口を開けて水を出し始めてから、蛇口を締めて水を止めるまでの間。
この間、私たちは、コップの中の水位を観察し続けている。それと同時に、水流を観察し続けている。
狙いはどこか?
目標地点はどこか?
それは、”コップ1杯の水”と言えるだけの水位だ。
仮にその水位を、コップの高さの80%地点とする。
私たちは、コップの高さの80%地点に達するまで、水位を観察し続ける。だが、水位がコップの高さの80%地点に達するまで観察し続けていてはいけない。なぜならば、蛇口を締めようと思ってから実際に手で蛇口を締めるまでの間にも、水は蛇口から流れ続けるからだ。したがって、水位がコップの高さの80%地点に達する少し前に、気づき、動き始めなければならない。
では、いつの時点で、気づき、動き始めればいいのか?
それは、「蛇口から流れ出ている水の量と速さ」、そして「”私が”いまの水位に気づいてから蛇口を締め切るまでのスピード」に依存する。
蛇口を締め始めるタイミングが遅ければ、水はコップから溢れてしまう。こうなると失敗。
逆にタイミングが早ければ、水はコップに対して少なくなってしまう。これは失敗だがリカバリー可能。
ぴったりのタイミングであれば、コップ1杯の水が完成する。大成功。
この例を読んだ時、私は非常に大きな衝撃を受けた。
なんせ、コップ1杯の水を入れるだけの話だ。ただそれだけの話なのに、なんて大げさなんだ!と。
だが同時に、こうも思った。
たったこれだけの話の中に宇宙がある。世界の本質がある。人間の本質がある、と。
要は、成功も失敗も、自分自身が引き起こしているのだ。
水がコップから溢れた。悪いのは、水ではない。コップでもない。もしかしたら水道や蛇口のせいではあるかもしれないが、それだけではない。
何を隠そう、水がコップから溢れるまで”放置した”のは、自分自身なのだ。
水道や蛇口の具合が悪ければ、その”具合を加味して”蛇口を締め始めれば良かったのだ。
つまり、”想定よりも”低い水位の段階で蛇口を締め始めるか、”いつもよりも”速いスピードで蛇口を締めるかすれば良かったのだ。
成功も失敗も、自分自身が引き起こしている。
成功したければ、失敗から学ぶこと。
誰もが初めは失敗する。なぜならば、コップ1杯の水を入れることですら、簡単なことではないからだ。少なすぎたり、多すぎたり。醤油でもマヨネーズでも、ちょろっとしか出なかったり、かけすぎたり。
大切なことは、いかに失敗から学ぶか、ということ。そして、いかに失敗しそうな状況に早く気づくか、ということ。
早く気づけば、早く動き出せる。
たとえ身体の動きが遅くても、早く動き出せれば、必要な時までに必要な行動を終わらせることができる。そのたまには、早く気づくことだ。
だが、事はそう簡単ではない。
なぜならば、人が問題に”気づく”ことは容易ではないからだ。それも、早く気づくことが困難なのではない。そもそも”現状に問題がある”ことに気づくことが容易ではないのだ。それは、人が暗黙的なメンタルモデルを持っているからだ。
この本の原題は、『The Fifth Discipline』である。
学習する組織(ラーニング・オーガニゼーション)を創るために必要な5つのディシプリン(規律)が記されている。
1. システム思考
2. 自己マスタリー
3. メンタルモデルの克服
4. 共有ビジョン
5. チーム学習
「学び」や「学び方」について、興味・関心をお持ちの方には、ぜひご一読をオススメします。
圧倒的に世界観が広がり、人間観が深まります。
っていうか、単純に勿体ないです。
システム思考やメンタルモデルという概念を知っているだけで気づけることが山ほどあります。
そんな素晴らしい武器、あるいは世界や人間を見通すメガネを持たずして、人生を生きるのは、勿体ない!
と私は、心底思っています。
とは言え、これはあくまで私個人としての意見です。
その意見を採用するかしないかはあなたの自由です。
人の意見を鵜呑みにしないこと。
それは、とても大切なことです。
一方で、早く失敗することも大切です。
“いいと思ったら24時間以内にやってみる”
かつて私の上司に教えてもらった言葉です。
いまも私にとって、非常に重要な行動指針となっています。
TAKU &sing