会社設立1年目の役員報酬額をいくらにするか?
いざ自分で役員報酬額を決めるにあたり、困ったことが3点あるので、それを書いておきたい。これから会社を設立しようとする方、これから役員報酬額を決めようとする方の参考になれば幸いである。
私は、2018年2月に会社を設立したが、4月から役員報酬を取ることにした。理由は、4月にならないと売上の入金(収入)がなかったからだ。仮に売上があっても収入がないままに支出をすれば収支がマイナスになる。月次で収支を均衡させることは資金繰りの基本である。
一方で、役員報酬額は、会社設立後3ヶ月以内の臨時株主総会で決定する必要がある。
その点からしても、私は遅くとも4月中には役員報酬額を決める必要があった。
さてさて。では、役員報酬額をいくらにするか?
これを決めるにあたり、私は以下3点の現実にぶちあたり、困った。
1. 役員報酬額は定期同額が基本
2. 社会保険料の会社負担分は15%
3. 初年度の収入は不確定要素だらけ
私は3点とも知識としては知っていた。だが、実際に”自分事として”役員報酬額を決める段になったら、その大変さをひしひしと感じた。
まず1点目。役員報酬額は定期同額が基本ということについて。
なんと、役員報酬額は、一年間、毎月一定額を支給しないといけないのである。月によって多くても少なくてもいけない。その月の業績が良かろうが悪かろうが、毎月一定額を支給し続けないといけない。つまり、月額20万円と決めたら、毎月20万円を支給し続けないといけない。そうしないと、法人税法上、役員報酬額が損金算入されない可能性が出てくる。損金算入されないと、その役員報酬額(の一部)が会社の経費として認められずに利益となり、税金がかかってしまう。したがって、役員報酬額は、毎月一定額で支給することが基本となる。
※この点についての詳細をお知りになりたい方は、国税庁のタックスアンサーをご覧ください。
このことを知った時(正確に言えば、自分事として実感した時)、「マジか!」と思った。正直、役員報酬額がこんなに融通の効かないものだったとは知らなかった。
「今月のことも、来月のこともわからないのに、この先何ヶ月も先のことなんてわかんねえよ!」「にもかかわらず、いまこの時点で、この先何ヶ月間もの役員報酬額を固定せよって鬼や!」と思った。
あっ、決して制度や誰かを批判している訳ではありません。あくまでも現実に直面して素直に感じた心の声を表現しているだけですので、あしからず…
楽観的に考えれば、「もし会社にめっちゃ利益がでたらどうすんねん!」「もっと役員報酬額を多くしておいた方がいいかなぁ」となるし、悲観的に考えれば「思ってるほど売上(収入)が立たなかったらどうしよう…」「もっと役員報酬額を少なめにしといた方がいいかなぁ」となる。
初年度の収入が不確定な中で役員報酬額を決めるということは、想像以上に心の葛藤があるものである。大げさに言えば、未来を創ってやる!という主観と、そこにある現実を直視する客観との戦いである。さすがに、ちょっと大げさな表現すぎるかも知れないが、自分で自分の役員報酬額を決めるということは、なかなか大変なことではある。
次に2点目。社会保険料の会社負担分は15%ということについて。
会社勤めの時や個人事業主の時には、社会保険料の会社負担分はなかった。しかし、会社を設立して、役員報酬や従業員給与を支払うと、役員や従業員が負担する社会保険料と同額を会社が負担しなければならない。
ざっくりいえば、役員報酬あるいは従業員給与(賞与を含む)の15%ほどを会社が負担することになる。仮に、20万円の役員報酬を受け取るとすると、その約15%、3万円程度の社会保険料を会社が負担しなければならない。これは、自己負担分とは別に、である。
つまり、自分で会社を設立して、自分に20万円の役員報酬を支払うとしたら、自己負担分と会社負担分を合わせて全部で約30%、6万円程度の社会保険料がかかる、ということである。結果、会社としての支出は約23万円、自分の手取りは20万円から約3万円を引かれた分以下となる(さらに所得税や住民税が引かれるため)。
以上の例は月額だから大した金額には見えないかもしれないが、年額で考えるとかなりの負担感だ。月額20万円でも年額で240万円。その約15%となると36万円程度。
「うおっ、マジか!」って思いません?
このことも以前から知ってはいたが、いざ自分事として考えて、初めてその大変さに気づいた。
「いやー、会社経営者って、ほんとエライなぁー」と思った。従業員が1人か10人か、100人か、1000人かは関係ない。
たった1人に給与を支払うだけで、約15%も社会保険料を負担している訳でしょ。ほんとすごいな、と思います。そして、自分も頑張らないとな、と思いました。
※こちらも詳細をお知りになりたい方は、全国健康保険協会の平成30年度保険料額表をご覧ください。ちなみに、社会保険料の会社負担分には、健康保険料と厚生年金保険料以外にも「子ども・子育て拠出金」も含まれますので、ご留意ください。
最後に3点目。初年度の収入は不確定要素だらけ、ということについて。
もうかなり長くなってきたし、1点目でも触れたので、簡単に説明して終わりにしたい。
要は、何の実績もない状況下では、売上計画のほぼすべてが不確定である、ということである。そりゃそうだ。いい話はあるかもしれないし、提案の機会もあるかもしれない。だが、実際に受注して契約するまでは、何の売上も立たない。売上が立たなければ収入がない。収入がなく支出をすれば、手持ちの現金預金が減っていくだけ。
売上計画は、楽観的に立てることもできるし、悲観的に立てることもできる。意志を込めて主観的に立てることもできるし、事実にもとづき客観的に立てることもできる。
どちらに行くかは自分の心の持ち方次第。にしても、拠って立つべき事実(実績となる売上)すらほとんどない。
そんな中で、一年間の会社の業績を予測し、役員報酬額を決める。
まぁ、なかなか大変なことだなぁ、と実感した次第です。
また、それと同時に、自らの意志をしっかりと持つことと、現実を直視することの双方が大切なんだなぁ、と改めて感じた次第です。
私はこれを、「右手にビジョン、左手に電卓を」と表現している。以前からそう表現していたが、いまでは、より実感を込めて言いたい。
会社設立1年目の役員報酬額をいくらにするか?
以上、私の経験が、少しでも誰かの役に立てば幸いです。
“右手にビジョン、左手に電卓を”
TAKU &sing